伊沢蘭軒
第十二日。
「六月朔日(ついたち)卯発。
琵琶嶺をすぎ山を下れば松林あり。
右方に入海のさまにて水滔々たり。
諸山の影うつる。
海の名を轎夫(けうふ)に問へば谷間の朝霧なりと答ふ。
はじめて此時仙台政宗の歌を解得(ときえ)たり。
(仙台政宗の歌に、山あひの霧はさながら海に似て波かときけば松風の声。
)一里三十丁細久手(ほそくて)駅。
此近村に一呑(のみ)の清水といふあり。
由縁(いうえん)詳(つまびらか)ならず。
然ども鬼の窟(いはや)、鬼の首塚等の名あれば、好事者鬼といふより伊勢もの語にひきあてゝつけし名ならんか。
三里御嶽駅。
一里五丁伏見駅。
太田川を渡り二里太田駅。
芳野屋庄左衛門の家に宿す。
熱甚。
しかれども風あり。
此駅に到て蠅大に少し。
蚊は多し。
此夜(かや)を設く。
行程七里許(きよ)。
」
2006-12-16T12:49:35