「 平田禿木 」


  • 趣味としての読書

  •  自分はこの新春(はる)から故グレエ子爵の『二十五年回想記』と『フアロドン雑講』を読んでゐるが、この大戦中の英名外相がその政治的活躍の背景として様々な楽しみ乃至趣味を有つてゐたのに驚く。

    第一に彼は釣魚(つり)、殊に蚊鉤釣りの名人である。

    蚊鉤釣りといへば主として河鮭と河鱒を釣るのであるが、英吉利に於けるその季節は毎年九月に終る。

    三月と四月が最も良く、一月頃からはもう夢の中にもその遊びを心に描いて、それを楽しんでゐた。

    鮭釣りとなると、船などを仕立てず、岡釣りをするか、脛を没して流を渉つてやるのが実に愉快である。

    が、これを人に勧めるのは、メレディスの小説を勧めるやうなもので、読めない、やれないと云はれればそれまでで、無理には強ひられないことだと云つてゐる。

    次に子爵は鳥にも興味を有つてゐて、フアロドンの自邸には大きな鴨場を設けて、英吉利は勿論、各国各種の鴨を飼育してゐた。

    西英ニユウ・フオレストの大森林地のほとりに小さなコツテエジを建てて、外相の劇職にあつた際も、週末の休みには必ず出かけて、太古の処女林そのままのあの深い森へ分け入つて、季節々々の鳴禽、幽禽の歌を聴くことを忘れなかつた。

    して、この野鳥の音を聴き分けることにかけては、その道の専門家も遠く及ばない程であつたのだ。

    最後に、彼にはまた別に読書の楽しみがあつた。

    一、二週の休みが取れると、彼は早速こちらなら仙台の田舎ともいふべき、北英の遠い自邸へ帰つて、その書庫に入り、好みの書を漁つて、心ゆくまでこれに読み耽るのであつた。


2006-12-16T12:27:32

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